労働保険の年度更新でやるのは2つだ。去年の分を実績で精算することと、今年の分を見込みで前払いすること。この2つが1枚の申告書に同時に乗る。
期間は毎年6月1日から7月10日まで。手元の数字で計算したら、去年の精算が81,400円の不足になり、今年の概算と合わせて1,265,400円になった。
以下の期間と条件は、2026年9月21日に厚生労働省と東京労働局、大阪労働局、静岡労働局のページで確かめた。計算はMicrosoft 365のExcel(バージョン16)で行った。保険率は仮の数字を置いているので、自分の事業の率に置き換えてほしい。
見込みで払って、あとから精算する
労働保険料は、1年分の賃金総額に事業ごとの率を掛けて出す。ところが年度の初めには、その1年でいくら払うかがまだ決まっていない。
だから先に見込みで納める。これが概算保険料だ。年度が終わって実績が出たら、同じ率で計算し直す。これが確定保険料になる。差が出た分を次の申告で精算する。
この仕組みのせいで、毎年の申告書には去年の精算と今年の前払いが並ぶ。金額が2つ出てくるので、どちらが何なのか分からなくなりやすい。
厚生労働省のページには、年度更新の手続きは毎年6月1日から7月10日までの間に行わなければならないと書かれている。令和8年度は6月1日の月曜から7月10日の金曜までだった。
精算の計算を式にする
必要な数字は3つだ。前年度に概算として申告した賃金総額、前年度に実際に払った賃金総額、今年度の見込みの賃金総額。
前年度の概算保険料: =ROUNDDOWN(前年度の見込み*率,0)
前年度の確定保険料: =ROUNDDOWN(前年度の実績*率,0)
精算: =確定-概算
今年度の概算保険料: =ROUNDDOWN(今年度の見込み*率,0)
今回納める合計: =精算+今年度の概算
率は労災保険率と雇用保険率の合計を使う。事業の種類で変わるので、申告書に同封されている率の表で自分の事業の率を見る。
前年度の見込みが5,800万円で実績が6,240万円だった例で計算した。実績のほうが8.0%多い。
確定保険料が1,154,400円、前年度に納めた概算が1,073,000円なので、精算は81,400円の不足になる。今年度の見込みを6,400万円とすると概算保険料は1,184,000円。合わせて1,265,400円を納めることになる。
見込みが実績を下回ると不足が出て、その分が今年の負担に乗る。逆に見込みが多すぎると払いすぎになり、翌年の概算から差し引かれる。どちらにしても、見込みの精度が資金繰りに効く。
延納できるのは概算40万円から
一括で払うのが基本だが、条件を満たすと3回に分けられる。
大阪労働局のページには、概算保険料の額が40万円、労災保険または雇用保険が一方のみ成立している事業にあっては20万円以上の場合、3回に分けて納付ができると書かれている。労働保険事務組合に事務処理を委託している場合も分割できる。
上の例では概算が1,184,000円なので、40万円を超えている。分割できる。
=IF(今年度の概算>=400000,"できる","できない")
判定は1本で済む。注意するのは、この40万円が今年度の概算保険料の額で、精算を含めた納付額ではないことだ。精算が大きくて合計が40万円を超えても、概算が40万円未満なら分割できない。
口座振替にすると、第1期が9月7日まで延びる
納期限は期ごとに決まっている。静岡労働局のページにある令和8年度の日付はこうなっていた。
通常の納期限は、第1期が令和8年7月10日、第2期が令和8年11月2日、第3期が令和9年2月1日。
口座振替を使う場合は日付が違う。第1期が令和8年9月7日、第2期が令和8年11月16日、第3期が令和9年2月15日になる。
第1期が7月10日から9月7日まで、約2か月延びる。申告は7月10日までに済ませたうえで、引き落としは9月になるという形だ。分割しない一括の場合も口座振替なら同じように延びる。
資金繰りの都合で7月の支出を減らしたいなら、この差は小さくない。上の例なら第1期が476,068円なので、その分の支払いが2か月先になる。口座振替の申込には期限があるので、前の年度のうちに手続きしておく。
端数は第1期に寄せる
3分割するとき、割り切れない端数をどうするかが決まっている。第1期に寄せる。
第1期: =今年度の概算-ROUNDDOWN(今年度の概算/3,0)*2+精算
第2期: =ROUNDDOWN(今年度の概算/3,0)
第3期: =ROUNDDOWN(今年度の概算/3,0)
前年度の精算も第1期に入る。精算は分割の対象ではないからだ。
上の例で計算すると、第1期が476,068円、第2期と第3期がそれぞれ394,666円になった。合計は1,265,400円で、一括で払う場合と同じ額になる。
=第1期+第2期+第3期-今回納める合計
この式が0を返すことを確かめてから提出する。端数の処理を間違えると、合計が数円ずれる。
賃金総額の集計は、3月が終わった時点で作る
6月に入ってから集計を始めると、7月10日まで日がない。年度が終わった4月のうちに、賃金総額だけ出しておく。
集計はSUMIFSで足りる。賃金台帳を支給日、区分、金額の3列で持っておけば、期間と区分で絞れる。
給与: =SUMIFS($金額,$区分,"給与",$支給日,">="&DATE(2025,4,1),
$支給日,"<="&DATE(2026,3,31))
賞与: =SUMIFS($金額,$区分,"賞与",$支給日,">="&DATE(2025,4,1),
$支給日,"<="&DATE(2026,3,31))
試しに15か月分の台帳で計算したら、年度内の給与が57,336,000円、賞与が7,600,000円で、賃金総額は64,936,000円になった。範囲の外にある行が3行あり、集計から除かれている。
賞与を入れ忘れると57,336,000円になる。差は7,600,000円で、率を18.5/1000とすると保険料で140,600円の違いになる。区分の列を持たせておけば、この抜けは起きない。
期間の指定は支給日で切る。給与計算の締め日ではない。3月締め4月払いの給与は、支給日が4月なので翌年度に入る。ここを締め日で切ると、毎年1か月分ずれ続ける。
見込みが大きく動く年は別の手続きが要る
年度の途中で賃金総額の見込みが大きく変わった場合、増加概算保険料の申告という手続きがある。
賃金総額の見込みが、当初の見込みの2倍を超えて増えた場合が対象になると聞いている。判定の式は作れる。
=IF(OR(今年度の見込み<実績/2,今年度の見込み>実績*2),"該当","該当しない")
上の例では該当しない。人を大きく増やした年や、事業を縮小した年は、7月を待たずに確認する。
踏んだ失敗
前年度の概算の額を確かめずに申告したことがある。手元の記録が確定保険料の額だったので、精算の計算が合わなかった。申告書には前年度の概算額が印字されているので、そこを見る。自分の記録と食い違ったら、労働局に問い合わせる。
賃金総額に賞与を入れ忘れたこともある。月々の給与だけを集計していた。実績が過少になり、翌年に不足として戻ってきた。賃金台帳から集計するときは、賞与の支給月も範囲に入れる。集計の期間は前年4月1日から当年3月31日までで、給与の締め日ではない。
今年度の見込みを前年度と同じにしていた年もある。人が増える予定が決まっていたのに反映しなかった。翌年の精算で大きな不足が出て、その年の負担が跳ね上がった。見込みは採用の計画を聞いてから決める。
納期限を7月10日だけ覚えていたこともある。分割した第2期と第3期を失念して、督促が来た。今は3つの日付をカレンダーに入れている。期限を先に書き出しておく考え方は月次の締めの記事と同じだ。
確認していないこと
賃金総額に含めるものと含めないものの一覧は、今回読んだページでは確認できなかった。通勤手当や現物給与の扱い、退職金や慶弔見舞金の扱いは、申告書に同封されている説明書か労働局に確認してほしい。
保険率も確認していない。上の計算では仮の率を置いている。事業の種類ごとに労災保険率が違い、雇用保険率も業種で分かれる。
増加概算保険料の条件も、2倍を超えるという理解で式を書いたが、条文で確かめていない。該当しそうな年は労働局に聞く。
一般拠出金の扱いもここでは扱っていない。申告書には保険料と並んで欄がある。
社会保険の定時決定も同じ時期に重なる。こちらは7月10日までに算定基礎届を出す手続きで、対象者の選び方は算定基礎届の記事に書いた。労働時間の集計そのものは残業の割増の記事にある。
出典(2026年9月21日確認): 厚生労働省「労働保険の年度更新とは」、東京労働局「令和8年度労働保険の年度更新について」、大阪労働局「労働保険の年度更新手続きについて」、静岡労働局「令和8年度労働保険の年度更新」。



