引き継ぎ書の型。前任者がいなくても回るように、いつ・どうやって・どこ・誰に・例外の順で書く

2026-09-20仕事の型

前任者が残した引き継ぎ書はA4で2枚あった。「売上集計」「請求書発行」「勤怠の締め」「備品発注」と業務の名前が並び、それぞれに2行ずつ説明が付いている。読んだときは分かった気になった。止まったのは月末だった。請求書を出す日に、どのファイルの、どの列を、どこへ送るのかが書いていない。前任者はもう会社にいない。取引先に1日遅れると連絡して、経理の先輩に聞きながら夕方までかかった。

そのとき決めたのは、自分が次に引き継ぐときは業務の名前ではなく、日付から書くということだった。読む側は「今日、何をすればいいか」を探す。業務一覧は書く側の頭の中の順番で、読む側の順番ではない。

引き継ぎ書が業務一覧になる理由と、日付から書く理由

引き継ぎ書を書く側は、自分が知っていることを列挙する。知っていることは業務の名前で整理されているので、一覧になる。手順は体で覚えていて、書こうとすると「見れば分かる」と省いてしまう。私も最初の引き継ぎ書はそう書いた。

読む側の順番は違う。着任した日の朝に知りたいのは、今日と今週に締め切りがあるかどうか。次に、その作業をどうやるか。やり始めると、ファイルがどこにあるか、IDとパスワードはどこで管理しているか、分からないときに誰に聞けるかが要る。そして必ず、前任者しか知らない例外にぶつかる。特定の取引先だけ請求書の宛名が違う、といった類のものだ。

だから型は、いつ、どうやって、どこ、誰に、例外の順に並べる。この順で書くと、業務一覧を書く場合より時間はかかる。私の場合、経理補助の引き継ぎ書で、業務一覧だけなら1時間、この型で書いて4時間半だった。そのかわり、引き継いだ相手からの問い合わせは最初の1か月で3件だった。前任者のA4版を引き継いだときの私は、同じ1か月で先輩に14回聞きに行っている。

型は6つの区画。コピーして埋める雛形

Excelで作るなら、区画ごとにシートを分ける。Wordなら見出しで分ける。私はカレンダーと場所の一覧は表にしたいのでExcelにしている。雛形はこれだ。

引き継ぎ書(経理補助) 作成 2026-09-20 作成者 ○○ 引き継ぎ先 ○○ 最終更新 2026-09-20

1. カレンダー(いつ、何を、いつまでに)
時期        作業                  期限          手順番号  所要
毎月1営業日  前月の売上を集計表に入力    3営業日まで    手順3     40分
毎月5日     請求書を発行して送付       5日中         手順4     1時間半
毎月10日    勤怠を締めて給与担当へ     10日17時       手順5     1時間
毎月25日    翌月の備品発注            25日中         手順7     20分
毎週月曜    入金の消込               当日           手順6     30分
4月・10月   社会保険の書類            月末           手順9     半日
不定期      取引先の登録変更          依頼から3日    手順8     15分

2. 手順(作業ごとに番号を振る。1行1操作)
手順4: 請求書の発行
 1. 共有フォルダ 経理\請求\2026\ を開く
 2. 「請求書_雛形.xlsx」をコピーし、ファイル名を「請求書_取引先名_202609.xlsx」にする
 3. 「入力」シートの黄色いセルに、売上集計表の当月分を転記する
 4. 印刷プレビューで2枚目にはみ出していないか見る
 5. PDFにして、宛先一覧(区画3)のメールアドレスに送る。件名は「9月分請求書(会社名)」
 所要: 1社10分、全部で1時間半
 使うもの: 請求書_雛形.xlsx、売上集計表.xlsx、宛先一覧
 詰まったら: 営業事務の○○さん(内線123)

3. 場所(ファイル、ID、鍵、帳票)
もの              場所                            備考
売上集計表         共有フォルダ 経理\売上\2026\        月ごとにシート
請求書の雛形       共有フォルダ 経理\請求\             変更は課長に確認
会計ソフトのID     パスワード管理台帳(課長の机の鍵付き引き出し)  自分のIDは退職時に削除依頼
金庫の鍵          総務のキーボックス 3番              借りたら台帳に記入
納品書の控え       キャビネットB 2段目                年度ごと

4. 相手先(社内と社外。それぞれの約束事)
誰                    何の相手                      約束事
営業事務 ○○さん       売上データの元                 毎月末日の夕方にデータをもらう
給与担当 ○○さん       勤怠の締め                    10日17時までに送る。遅れると給与計算が翌日に
取引先A 経理 ○○様     請求書の送付先                 宛名は「株式会社A 経理部御中」ではなく担当者名で
取引先B               請求書                        郵送のみ。PDF不可

5. 例外と、過去に起きたトラブル
・取引先Aは、月の売上が0でも「0円の請求書」を求めてくる(2025年11月に問い合わせあり)
・取引先Cの締め日は20日。他社と同じ月末で集計すると、翌月分が混ざる
・2026年2月、会計ソフトの年度更新で前年のIDが使えなくなった。更新後は再ログインが必要
・売上集計表の「合計」行は手入力。行を足したときは合計の範囲を広げる

6. 未処理・進行中
・取引先Dの住所変更(依頼日 9/15、登録は未)
・9月分の請求書は発行済み。入金の消込は10/1以降

雛形の中の作業名や数字は、私の経理補助の例だ。そのまま使うのではなく、区画と列の構成だけ残して中身を入れ替える。

区画ごとに、何を書いて何を書かないか

カレンダーには、期限と手順番号と所要時間を必ず入れる。期限は「月初」ではなく「3営業日まで」「10日17時」のように、遅れたら何が起きるかが想像できる書き方にする。所要時間は、着任した人が1日の予定を組むために要る。私は最初、所要時間を省いた。引き継いだ相手から「請求書の発行に何時間見ればいいか」と聞かれて足した。

手順は1行1操作で書く。「請求書を発行する」は手順ではない。「雛形をコピーする」「ファイル名を変える」「黄色いセルに転記する」の粒度まで下ろす。ここが一番面倒で、一番効く。書いてみると、自分が無意識にやっていた確認(印刷プレビューで2枚目にはみ出さないか見る)が出てくる。それを書かずに渡すと、はみ出した請求書が取引先に届く。

場所は、ファイルの階層まで書く。「共有フォルダ」では足りない。IDとパスワードは、引き継ぎ書に直接は書かず、管理している台帳の場所を書く。引き継ぎ書はコピーされて回るので、パスワードを書いた瞬間に管理できなくなる。

相手先には、連絡先だけでなく約束事を書く。「毎月末日の夕方にデータをもらう」という約束は、口頭で決まっていることが多く、着任した人には見えない。取引先ごとの宛名の違いや、郵送のみといった条件もここに置く。

例外は、業務一覧に一番入りにくく、一番問い合わせを生む。書き方は「誰が、いつ、何をしたら、何が起きた」の事実だけにする。「注意すること」のように抽象化すると、読んだ人はどの場面か分からない。日付を入れるのは、古くなった例外を後で消せるようにするためだ。

未処理は、引き継ぎの当日に書く。1週間前に書いた引き継ぎ書は、渡す日にはずれている。私は引き継ぎ書の最終更新日を1行目に入れて、渡す朝に区画6だけ書き直す。

引き継いだあとの1か月で直した3つ

型を使って渡したあと、3件の問い合わせが来た。3件とも引き継ぎ書に足した。

1件目は「売上集計表の合計行が合わない」。行を足したときに合計の範囲を広げる、という手順が抜けていた。手順3に1行足し、区画5にも入れた。2件目は「取引先Bに請求書をPDFで送っていいか」。区画4に郵送のみと書いてあったが、相手は区画4を読んでいなかった。手順4の5番目に「送付方法は区画4で確認」と入れた。相手が読む場所は手順なので、他の区画にある条件は手順の中から参照させる。3件目は会計ソフトの年度更新で、これは私も知らなかった。前任者の前任者に聞いて区画5に足した。

引き継ぎ書は渡して終わりではなく、最初の1か月の問い合わせで完成する。だから渡すときに「分からなかったことは、聞く前にどこを見たかを教えてほしい」と頼んでおく。どの区画を見て見つからなかったかが分かれば、足す場所が決まる。

書く時間を短くする順番

4時間半かかったと書いたが、順番を変えれば縮む。私が次にやるなら、着任して最初の1か月に、自分が困った順にメモを取る。何を探したか、誰に聞いたか、何分止まったか。このメモがそのまま区画3と区画5になる。手順は、次にその作業をやる日に、やりながら1行ずつ書く。書くために別の時間を取るより、作業と同時に書くほうが漏れない。

カレンダーだけは、着任直後に前任者の引き継ぎ書と自分の予定表から作る。期限が分かっていれば、他の区画が薄くても止まらない。

型の雛形をExcelのファイルにしたものは、要望があれば配布する。今のところ、上の雛形をExcelに貼って、区画ごとにシートを分ければ同じものができる。

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