業務マニュアルをAIで下書きする型。手順の聞き出し方と、抜けをExcelで見つける検査

2026-09-21AIの使い方

業務マニュアルをAIに下書きさせるとき、詰まるのは書かせる段階ではない。材料を集める段階だ。作業者に手順を聞いても、順番通りには出てこない。

聞き方を変えると出る。終わりから遡って聞き、例外を先に聞く。そのうえで、出てきた手順の表に検査をかけると、聞き漏らした場所が式で出る。12手順の例で試したら、4か所で連結が切れていた。

以下の式と件数は、2026年9月21日にMicrosoft 365のExcel(バージョン16)で計算した。手順の表は説明のために作ったものだ。

作業者は手順を順番に話せない

毎日やっている作業ほど、説明が飛ぶ。本人は飛ばしたつもりがない。体が覚えている動作は、意識に上がらないまま手順から落ちる。

新人に教えるときに、最初に何をするんでしたっけ、と聞かれて詰まるのがこれだ。順番に思い出そうとすると、いちばん最初の一手が出てこない。ファイルを開くところから始めるのか、その前にメールを見るのか。

順方向で聞かない。ここだけ変える。

終わりから聞くと、要るものが名前で出る

聞くのは、終わったときに何ができていれば完了か、から始める。

請求の作業なら、消込予定表に載っている状態、という答えが返る。次に、それを作るには何が要るかを聞く。請求台帳の行、という答えになる。さらに、それを作るには何が要るか。送信済みのメール。

遡ると、要るものが名詞で出てくる。名詞で出ると、それをどこから取ってくるかを聞ける。順方向で聞くと動詞が並ぶので、間にある物の受け渡しが見えない。

遡りきって、最初から手元にあるものだけになったら終わりだ。だいたい10分で底に着く。販売管理システム、送付先マスタ、というように、作らなくてもそこにあるものが残る。

例外は先に聞く

うまくいかないのはどんなときか、を早めに聞く。手順が全部出たあとに聞くと、そんなものはない、という答えになる。

聞き方は、この作業で今年つまずいたのはどの場面か、という形にする。過去の実例を聞けば、条件分岐が具体で出てくる。値引きのある取引先、月末が土日に当たる月、といった条件が並ぶ。

聞き取りは30分ずつ2回に分ける。1時間続けると後半の記憶が曖昧になり、確かめ直しが増える。1回目で流れを取り、2回目で例外を取る。

AIに渡す依頼文

聞き取りのメモを渡して、表に整えさせる。ここで一番大事なのは、補わせないことだ。

次の聞き取りメモから、業務手順の表を作ってください。
列は、番号、手順、使うもの、できるもの、所要分の5つ。

・1行に1つの動作だけ書く
・「使うもの」と「できるもの」は名詞で書く。動詞を入れない
・メモに書かれていないことは補わない。分からない欄は「不明」と書く
・手順の順番はメモの通りにする。並べ替えない

最後に、メモから読み取れなかった点を箇条書きで挙げてください。

補わないでください、という1行がないと、一般的な手順が混ざる。うちに存在しない承認の段階が入っていたこともある。読んだ新人がその通りにやろうとして止まった。

最後の1行も要る。読み取れなかった点を挙げさせると、それがそのまま2回目の聞き取りの質問になる。自分で質問を考えるより早い。依頼文に引用の義務と権限の線を書く考え方は議事録をAIに書かせる記事と同じだ。

使うものとできるものを突き合わせる

表ができたら、目で読む前に検査にかける。手順の連結が切れている場所は、式で出る。

考え方は単純だ。ある手順が使うものは、それより前の手順ができるものか、最初から手元にあるもののどちらかでなければならない。どちらでもないなら、その物の出どころが手順に書かれていない。

逆向きも見る。ある手順ができるものは、あとの手順が使うか、最終の成果物でなければならない。どちらでもないなら、作ったものが宙に浮いている。

出どころ: =IF(OR($C2="",COUNTIF(前提!$A:$A,$C2)>0,
            COUNTIF($D$2:$D1,$C2)>0),"","出どころ不明")
行き先:   =IF(OR($D2="",COUNTIF($C3:$C$13,$D2)>0,
            $D2=$J$2),"","行き止まり")

前提シートには、最初から手元にあるものを並べておく。$J$2には最終の成果物を入れる。C列が使うもの、D列ができるものだ。

12手順で4か所が切れていた

請求書の発行を12手順に分けた表で試した。合計165分の作業になる。出どころ不明が2件、行き止まりが3件出た。

手順 出た指摘 中身
2 行き止まり 請求書の下書きを受け取る手順がない
3 出どころ不明 値引き一覧をどこから取るか書かれていない
6 両方 送付先の突き合わせが前後とつながっていない
10 行き止まり 封筒を作ったあと、投函する手順がない

中身を見ると、4つとも性質が違った。

手順3は本当の聞き漏らしだ。値引きの一覧が誰かから届くのか、自分で作るのかが抜けている。聞き直して、営業部から月初にメールで届くと分かった。

手順10も抜けている。封筒を作って終わりになっていて、投函する動作がない。毎日やっている人には当たり前すぎて、口に出なかった部分だ。

手順6は、送付先の突き合わせがどこにもつながっていない。実際には請求書を分割したあとにやる作業で、位置が違っていた。

手順2は書き方の問題だった。使うものを1つしか書かなかったせいで連結が切れている。次の手順が売上明細ではなく請求書の下書きを受け取ることを書き足したら消えた。

内訳はこうなる。本物の抜けが2件、順番の誤りが1件、書き方の漏れが1件。目で読んでいたら、どれも見落としていた。とくに手順10は、読んでも違和感が出ない。

検査を通したあとにやること

指摘が消えるまで直したら、実際にその通りにやってみる。書いた本人ではなく、やったことがない人にやらせる。

止まった場所が、書けていない場所だ。それだけのことだが、書いた本人にやらせると出てこない。ここで出るのは、手順の抜けではなく前提の抜けが多い。どのフォルダにあるか、権限があるか、といった話になる。

チェックリストに落とすのは、この段階が済んでからでいい。項目の絞り方はチェックリストの作り方の記事に書いた。手順書とチェックリストは別物で、一緒にすると両方が使われなくなる。

どの業務から作るかを点数で決める

全部の業務を書こうとすると、1本目で止まる。先に順番を決める。

見るのは3つだ。その作業をできる人が何人いるか、月に何回あるか、止まると困る度合いはどれくらいか。困る度は1から5で自分が付ける。

=ROUND(止まると困る度*LOG(月の回数+1)/できる人数,2)

できる人数で割っているので、1人しか知らない業務の点数が上がる。回数は対数にした。月80回の業務が月8回の10倍困るわけではないからだ。

8つの業務で計算したら、1位が受注の入力で2.68、2位が請求書の発行と月次の締めで1.51の同点だった。問い合わせの一次対応は月80回と多いが、できる人が4人いるので0.95にとどまる。回数が多い業務から手を付けたくなるが、点数にすると順番が変わる。

同点が出たときは、止まると困る度が高いほうを先にする。上の例なら、どちらも5なので回数の少ない月次の締めを後ろに回した。

踏んだ失敗

AIに一般的な手順を補わせたことがある。もっともらしい承認の段階が入り、そのまま配ってしまった。実在しない部署名まで入っていた。補わないでくださいと書くようになったのはこれ以降だ。

使うものの欄を動詞で書かせたこともある。売上を確認する、のような書き方だと、次の手順の欄と文字が一致しない。COUNTIFは完全一致で照合するので、検査が全部素通りになった。名詞に統一してから機能し始めた。表記のぶれで照合が効かなくなる話は電話とメールの記録の記事にも書いた。

聞き取りを1時間続けて、後半が曖昧になったこともある。本人も疲れて、たぶんこうだった、という答えが増える。30分で切って日を分けたほうが、結局は早く終わった。

確認していないこと

画面録画から文字起こしを作る方法は試していない。口で説明しながら操作を録る形は聞くが、自分で確かめていないので書けない。

上の検査は名前の完全一致に頼っている。売上明細CSVと売上明細ファイルのように表記がぶれると、切れていないのに切れていると出る。入力規則のリストで名前を固定しておくと減る。

マニュアルの体裁や、画面の写真をどこまで入れるかは扱っていない。前任者がいなくなる前提の書き方は引き継ぎ書の記事に分けて書いた。

所要分の見積もりも確かめていない。上の165分は説明のために置いた数字で、実測ではない。自分の職場で計り直してほしい。

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