工場で指を挟んだ、配送先の階段で転んだ。けが人を病院に運んだあと、事務が出すものは2つの系統に分かれる。労働基準監督署への報告と、労災保険の給付を受けるための請求だ。どちらも労基署の窓口なので、片方を出して終わったつもりになりやすい。
報告のほうは2025年1月1日に中身が変わった。様式第23号と第24号という番号が使われなくなり、電子申請が原則になっている。以下、条文はe-Gov法令検索、様式と手続きの扱いは厚生労働省のページで2026年9月21日に確かめた。個別の判断は所轄の労働基準監督署に聞いてほしい。
報告を出しても、治療費は下りない
労働者死傷病報告は、労働安全衛生規則第97条に基づく報告だ。事業者が労基署に「こういう災害が起きた」と知らせるためのもので、これを出したからといって治療費が出るわけではない。
治療費と休業分は、労災保険の請求書を別に出す。労災指定の病院で治療を受けるなら療養補償給付の様式第5号、休んだ日の補償は休業補償給付の様式第8号。こちらは番号が残っている。
報告だけ出して請求を忘れると、本人が治療費を立て替えたままになる。請求だけ出して報告を忘れると、あとから労基署に報告を求められる。2つは目的が違うので、片方が片方を代わりに果たすことはない。
様式第23号を探しても、もうない
厚生労働省のページには「令和7年1月1日以降は、従前の労働安全衛生規則様式第23号及び同第24号は使用しないでください」と書かれている。それでも、検索の上位に出てくる記入例のページは、いまも様式第23号の名前で書き方を説明している。
条文を読むと、番号が消えた理由が分かる。改正後の第97条第1項は「電子情報処理組織を使用して、次に掲げる事項を所轄労働基準監督署長に報告しなければならない」となっていて、報告する12の項目を並べている。様式に記入して提出する、という組み立てではなくなった。
紙の帳票は、厚生労働省の入力支援サービスで作る。名前は「労働者死傷病報告(死亡及び休業4日以上)」と「労働者死傷病報告(休業4日未満)」で、番号は付いていない。パソコンを持っていないなどの事情があれば、当分の間は書面での報告も認められている。
事故の直後に聞き取る12項目
第97条第1項が挙げている報告事項は、そのまま聞き取りのリストになる。労働保険番号、事業の種類と事業場の名称・所在地・電話番号、常時使用する労働者の数。建設工事なら工事の名称と元方事業者の事業場の名称。構内で請負人の労働者がけがをしたなら、その事業場の名称。派遣なら派遣先と派遣元のどちらとして報告するのかの別と、派遣先の事業場の名称と郵便番号。
けがをした本人については、氏名・生年月日・年齢・性別・職種、その職種における経験期間、傷病の名称と部位、休業見込期間または死亡日時。外国人なら国籍または地域の名称と在留資格の区分。最後に、災害の発生日時・発生場所の所在地・発生状況・略図・原因と、報告年月日および事業者と報告者の職氏名。
このうち「その職種における経験期間」は、人事の記録から出てこないことが多い。異動の履歴から数えるのか、前職を含めるのか、現場に聞かないと決まらない。本人が病院にいるうちに聞いておかないと、あとで電話をかけ直すことになる。外国人の在留資格の区分も同じで、在留カードを見ないと書けない。
労働保険番号は、労働保険の年度更新で使うものと同じだ。年度更新の書類に印字されているので、そこから拾える。
休業4日未満は、年に4回しか出せない
休業が4日に満たないときは、1件ずつ出すのではなく四半期でまとめる。第97条第2項が、1月から3月、4月から6月、7月から9月、10月から12月の期間ごとに、それぞれ最後の月の翌月末日までに報告すると定めている。
2月に起きた軽いけがを、その月のうちに出そうとしても受け取ってもらう先がない。4月に入ってからまとめて出す。逆に、3月に起きた分を忘れたまま5月になれば、もう遅れている。
四半期の報告には、休業見込期間ではなく実際の休業日数を書く。第2項は第9号(休業見込期間又は死亡日時)を除いた項目と休業日数を報告するとしている。見込みではなく結果を書くので、本当に4日未満で復帰したことを確かめてから出す。3日で戻ると思っていた人が5日休んだなら、四半期の報告ではなく、遅滞なく出すほうに移る。
期限が日付から機械的に決まる手続きは、忘れた時点で取り返しがつかない。退職のときの3つの期限と同じで、起きた日をカレンダーに書いた瞬間に締切も決まっている。
最初の3日は、労災保険から1円も出ない
休業補償給付は、労災保険法第14条で「賃金を受けない日の第四日目から」と決まっている。最初の3日は労災保険の対象ではない。業務災害なら、その3日は会社が払う。労働基準法第76条が、使用者は平均賃金の100分の60の休業補償を行わなければならないと定めている。
平均賃金と給付基礎日額がどちらも12,000円の人が15日休んだ場合を計算した。2026年9月21日にMicrosoft 365のExcel(バージョン16)で確かめている。
待期の3日は、会社が7,200円ずつで21,600円。4日目から15日目までの12日は、労災保険の休業補償給付が日額7,200円、休業特別支給金が日額2,400円で、合わせて115,200円。本人が受け取るのは136,800円になる。
休まずに働いていれば180,000円なので、76%まで戻る計算だ。差の43,200円は出ない。
通勤災害は扱いが違う。労働基準法第75条の災害補償は「業務上」のけがを対象にしていて、第76条はその療養中の休業補償を定めている。通勤中のけがに会社の休業補償の義務はない。3日分の21,600円が出ないので、受け取るのは115,200円、64%になる。業務災害と同じ処理をすると、払わなくていいものを払うか、払うべきものを落とす。
休業が3日で終わったときは、労災保険からは何も出ない。それでも業務災害なら、会社は3日分の21,600円を払う。給付がゼロだから何もしなくていい、とはならない。
請求には時効がある
療養の費用と休業の補償は、請求権が発生した日の翌日から2年。障害給付は傷病が治癒した日の翌日から5年、遺族の給付は亡くなった日の翌日から5年。厚生労働省のページに給付ごとの起算日が載っている。
2年は短い。本人が「大したことない」と言って請求しないまま通院を続け、あとで自己負担分を取り戻そうとしたときに、古い分から時効にかかる。療養の費用は支出した日ごとに請求権が発生するので、1回の通院ごとに別々の時計が動いている。
出さない、嘘を書くと50万円以下の罰金
労働安全衛生法第120条第5号は、第100条第1項の報告をせず、または虚偽の報告をした者を50万円以下の罰金に処すると定めている。死傷病報告は第100条第1項に基づく省令なので、ここに当たる。
休業日数を4日未満に書いて四半期の報告に紛れ込ませる、発生場所を事業場の外にする。こうした処理は虚偽の報告になる。
第1項の「遅滞なく」に日数の定めはない。条文にも厚生労働省のページにも具体的な日数は書かれていなかった。何日までなら遅滞なくと認められるかは確認していない。災害の状況が固まった時点で出す、としか書けない。
紙で出すなら、用紙の厚さまで決まっている
書面で出す場合は、入力支援サービスで作った帳票を印刷する。このサービスは事前の登録がいらず、誰でもブラウザから帳票を作れる。入力した内容はXMLファイルで手元に保存でき、次の帳票を作るときに読み込むと、労働保険番号などの共通項目が入った状態から始められる。
印刷したものはOCRで読み取られるので、用紙の条件が注意書きに並んでいる。A4サイズ、坪量67g/m2程度、白色度80%以上。印刷したものをコピーして使うのは不可で、拡大・縮小・回転の設定を変えずにそのまま出す。倍率を92%にして余白を作ったりすると、読み取れない。
電子申請には、e-Govアカウント、GビズID、Microsoftアカウントのいずれかが要る。電子署名と電子証明書の添付は不要だ。定期健康診断結果報告も同じ日から電子申請が義務になっているので、健康診断の記録を出すときのアカウントがそのまま使える。労災のほうが先に来ることは、こちらの都合では選べない。



